夷英信(株式会社リンク「 BAZZSTORE」代表) )
×
羽田憲人(元 UNFASHION 代表)
特別対談 後編


2012年に開業し、2014年4月に看板を下ろした輸入古着通販サイト「UNFASHION」。そして同社が運営していたメディア、「UNFASHION ism」と「東京古着屋マップ by UNFASHION」が、この度ブランド古着販売を行う「BAZZSTORE」へ譲渡されることとなった。これを受けて、株式会社リンク(「BAZZSTORE」)代表の夷英信と、元 UNFASHION 代表の羽田憲人の対談が実現。前編(こだわりの実現より、人が何を欲しているのか理解し適切に提供する-古着ビジネスのNEXT)では、「UNFASHION」から「BAZZSTORE」へメディアが引き継がれるに至った経緯を語ってもらった。「特別対談 後編」では、古着屋やリサイクルショップが「メディア」を運営するということ、そして個人や企業がメディアを利用し発信していくことへの思いを語り合う。
(インタビュー・構成/ ぽにょ)


羽田:改めまして、羽田です。現在は起業していますが、学生時代に輸入古着の販売サイト、「UNFASHION」をやっていました。そこで運営していたメディアが「UNFASHION ism」、「東京古着屋マップ」です。店を閉じてから 1 年以上経ちましたが、今年になって夷さんからご連絡をいただいて、「UNFASHION ism」と「マップ」を「BAZZSTORE」 に引き継いでいただくことになりました。

01

夷:よろしくお願いいたします。夷です。都内でブランド古着の販売・買取のリサイクルショップ、 「BAZZSTORE」を運営しています。渋谷に新店舗を開店することになり、新しい集客方法を探っているなかで「UNFASHION」のメディアを見つけて、今回譲渡していただくことになりました。

羽田:ありがとうございます。自分は海外古着の輸入販売でしたが、夷さんは店舗でブランド古着の買取販売をされていて。さらに EC もされている。お互い「古着」という点で共通していますが、やはり実店舗での販売というのは、すごいことだなと改めて思います。

02

夷:そもそも「服を売る」とか、リサイクルショップ、というもの自体まだあまり広まっていないというのが現状だと思うんです。たとえば関東だったら「RAGTAG」だよね、というぐらいのイメージしかなくて。やっぱり市場規模に対してシェアを取っていることがあまりないんですよ。

羽田:たしかに、リサイクルショップで服を買うという習慣がない人にとっては、なかなか認知されていない状況かもしれないですね。

夷:そうですね。昔お店でアンケートを取ったことがあったんです。「どうしてうちの店に来たんですか?」という。その1位の回答って、なんだったと思いますか?

羽田:ええ? なんでしょう(笑)。実はあまり関係のない答えのような気がしますね、「暇だったから」とか、ですか?

夷:近いですね。これがね、7 割の人が「通りがかったから」。4、5 年くらい前のデータなので今は「売りに来た」という人も増えているかもしれないし、変化はあるかもしれませんが、まぁそのくらい浸透していないという状況です。なので、まだまだ「リサイクルショップ」というのは、ベンチャーとしては可能性がある市場なんじゃないかと思っているんですよ。

羽田:一部の古着好き以外にも「リサイクルショップ」という形で市場がより広い層へと拡大していく可能性はありそうです。

「古着」をより“マス”のものへ——

03

夷:古着が好きな人って結構ネット上でもコミュニティを作っているじゃないですか。

羽田:うん、そうですねぇ。

夷:「古着オタ専用板」みたいな(笑)。なかには、色んな人がいて、羽田さんみたいに海外の一点モノが好きな人もいれば、デザイナーズのものが好きな人もいるし。

羽田:ですね、かなり細分化して活発に交流していると思います。「あそこの店ってこうだよね」という話とか。

夷:ただ、そこは自分たちが狙っているところとはちょっと違っていて。自分たちは、もう少し広いところを狙っているんです。うちの命題として、「リサイクルショップの認知度を上げたい」というのが根底にあるので。まだまだ全然認知度が高くない状況だと思うんですよ。

羽田:たしかに、「着ていた服が売れた」としても、それが高いのか、安いのかすらわからないという状況かと思います。

夷:そう! まず自分の着ていた服に値段が付くと思っている人も少ないんです。うちが服を売ってあたりまえ、という風になるようなインフラになれたらいいなと。

羽田:そう考えると、よりマスを狙っているという点で、「UNFASHION ism」は 「UNFASHION」よりも「BAZZSTORE」の方に親和性が高いかもしれないですね。今お話を伺っていて「UNFASHION」で発揮できなかったメディアの可能性が、「BAZZSTORE」の方でうまく生かせるんじゃないか、と思いました。引き継いでいただけて、すごく嬉しいです。

夷:そう言っていただけると嬉しいですね。

04

羽田:それに「BAZZSTORE」が珍しいな、すごいなぁ、と思うのは、EC を結構やられているんですよね。楽天、Yahoo、DeNAもやってらっしゃるし。

夷:最近では、「Ameba 古着屋」にも出店しました。

羽田:EC これだけやっている業者って珍しいと思うんです。店舗もたくさんあるのに、ECもそれだけやっているというのは。

夷:うちは、はじめから EC もやろうって決めていたというのはありますね。

羽田:いや、それが実際にできるというのは、やっぱりこんな学生にまで連絡をくれるようなフットワークの軽さだったり、そういう手を広げる精神性がデカイんだと思います(笑)。

夷:たしかに、アンテナは広げるようにしています。「面白い人いないかな」っていつも意識していますね。

05

夷:独立して大手に入っていない状態って、自分の価値観とか視点がどんどん小さくなってしまうことがあるんです。それって情報も少なくなって、社会と切断されていくと言いますか。その場合、もう自分で動くしかないんです。その結果、こういった出会いに繋がったわけですから。

羽田:いやぁ、ありがたいです。いつもお世話していただいてるので。

オンラインからオフラインへの導線構築——

羽田:こうやってメディアを引き継いでいただくんですけれども、やはり僕は今も販売とメディアを組み合わせる、というところに面白さがあると思っています。

夷:僕も、まず「リサイクルショップがメディアをやるって面白いな」と思ったのがスタートです。 あんまりないじゃないですか、そういうことをやっているリサイクルショップって。それだけで面白いことだし。

06

羽田:うん、そうですね。

マーケットインとプロダクトアウトのすり合わせ——

07

羽田:僕の場合は、「自分のこだわり」と「マーケットイン」で世間のニーズに応えていく、というところの間で、正直よく分からなくなってしまったところがあったんです。だから、やっぱり「BAZZSTORE」にメディアを引き継いでいただけるというのは、すごくラッキーなことだと思っています。

夷:なるほど。

羽田:僕は「UNFASHION」自体が人生初めてのサービスだったので、それがサービスとして生き続けるというのは、単純にすごく嬉しいということもありますし。

夷:そういっていただけると、良かったです。

羽田:それに、僕が夷さんとお話していて思うのが、お二人には 本当に「商売哲学」みたいなものがあるんですよ !(笑)。

夷:ははは。

羽田:なんていうのか、あまりうまく言葉にできないんですけど、僕はどっちかっていうと、「商売」というよりも「ウェブサービス」を提供しようとしていて。きっとそれがいけなかったんだと思うんですよね。モノを売って儲けようとする以上、「仕入れて売る」というのが原則じゃないですか。その原則に立ち返らずに、「かっこいいウェブサイト作ろう」とか、「良いイメージを持ってもらおう」というのが先行してしまったんです。変な言い方ですけど、自己満足だったと言いますか。

夷:なるほど。

羽田:なんていうか、あるじゃないですか。古着屋でもそういう“自己満足系古着屋“みたいなのって。

夷:それでも、刺さる人には刺さりますからね。

羽田:夷さんと出会って、やはり「仕入れて売る」という商売の原則に忠実にやられていて。自分は、それができていなかったから自分のサイトが上手くいかなかったんじゃないか、ということが客観的に見えてきたところはあります。それが分かったことも、「UNFASHION」でメディアやっていたからこそ得られたことだと思います。

「学生ビジネス」だからこその魅力——

08

夷:僕は在学中にやるのって、全然良いと思うんですよ。さっきの自己満足の話じゃないですけど、「俺は商売でやっているんじゃない、儲けたくない」とか言っている 人も、実は欲しがっていることが多くて。でも、それが生きていくっていうことですから。なにも悪いことじゃない。

羽田:それは本当にそう思いますね。在学中にビジネスをするっていうのはすごく良いです。

夷:人って、学生中、サラリーマン中に、どれだけ勉強できるかというところが大切です。サラリーマンになったら、もちろんそこに経験も関わってきますが。

羽田:学生でビジネスをすると、大人の方とかがすごく面白がってくれることもあるので、とても良いと思うんですよ。

夷:「UNFASHION」を閉める時のエントリーにも書いてありましたけど、羽田さんたちの世代って「意識高い系」を揶揄するような風潮があったりした、と。

羽田:でも実際にやってみたら、全然違って。風当たりも強くなかったんですね。

夷:うんうん。

羽田:結構面白がってくださる大人の方がいるし、それでこうやって夷さんにも出会えた わけですから。本当に「学生ビジネスは良いよ」って言いたいですね、僕は。

夷:ですね。結局、何かをやっている人に対して横からしゃしゃり出たとしても、やって いる人のほうが分かることって多いじゃないですか。

羽田:意識って高ければ高いほうが良いですからね(笑)。

夷:さっきのアンテナの話と一緒です。高いほうが良いんです。低くても良いのは天才だけ、放っておいても人が勝手にやってくるから。

羽田:とくに「意識高い系(笑)」という言葉が流行った頃って、意識高くありたいけれども、そうすると批判の目に晒されるんじゃないか、みたいなことを考えがちな時期だったと思うんですよ。

夷:もちろん僕も、羽田さんと同じように若い時期があったわけでして(笑)。どちらかと いうと、僕も斜に構えていた時期があったわけですよ。でも、あるタイミングで、あえてネットとかに自分の実名を出していこうと決めた時期があったんです。

羽田:うん。

夷:炎上したらどうしようとかもあったんですが、でも腹を据えた。常に見られていると いうのを意識し続けようというスタンスに変えるようにしたんです。

羽田:そうだったんですね。

「自分由来の意見」を持ちづらい世の中での発信——

09

夷:僕らの頃って 2 ちゃんねるとか匿名のサービスを使っていた、そんな時代だと思うん です。でも今と昔、決定的に違うのって SNS だと思うんですよ。mixi とか2ちゃんねるとか、 正直サービス自体がなにかよく知らない若い子も多いと思う。そういう若い世代に対して、大人がしっかり教えないといけないのに、大人自体もそれをよく知らない。そういう中途半端な状態になっ ているじゃないかな、と。良さも悪さも伝えていくしかないのに。

羽田:たしかに、匿名掲示板では「洗礼」的なものがありましたからね。

夷:今、それが全部公開されてしまうんですよ。その「洗礼」が、「炎上」という状態になっているのかなって。絶対にあるんですよ、若い頃はそういう暴挙というか(笑)。それは 少し大目に見てあげる必要があるかもしれません。

羽田:やっぱり自分の意見を持ちづらい世の中だと思いますよ。今って、ある事象があったときに、どういう意見があるのかすぐに分かるじゃないですか。A という事象、B という事象に対する、C という意見、D という意見が見れてしまう。それだけじゃなくて、その発言をした人がどういう反応をされているかも分かるじゃないですか。

夷:うん。

羽田:発言している人も見えるし、その人がどういう反応をされているかも見えてしまう、と。SNS があるからだと思うんですが。だから自分由来の発言をしにくい世の中だな、って思うんです。こういう発言すると、こういう反応が返ってくるから、じゃあ黙っていよう、という風に。

夷:そういう大枠のコミュニケーションは昔から変わらないと思うんです。その基盤が ブワッと広がっているじゃないかな。

羽田:全体の可視性が高まっているというか。

夷:うん。

羽田:ネットで発言している人って、多くの人が発言しているように見えていて、実は一部の人ですよね。炎上するような人って、結構「極端」な意見を言っているというのがある。「普通」の意見を持っている人って、黙っていると思うんですよ。だからそういう目に付きやすい「極端」な意見を鵜呑みにしたり、真に受けたりするのはよくないな、という風には思いますね。話がだんだんズレてきましたけど(笑)。

夷:今こういう話ができるのも、大人になったからで(笑)。同い年だったら斜に構えて様 子をうかがっているかもしれない。

羽田:「意識高い系(笑)」みたいな風潮も退潮してきている気がしてるんですよ。それって結局、斜に構えていても可愛がられないって学んだからでしょ、とは思いますね。

10

夷:斜に構えながらタイミングを窺う人と、ずうっと斜に構えている人といて(笑)。まぁ 本当は僕らのように「大人」と言われている人が斜に構えて自分の意見を持たなかったり、そのままで30代を終えたりするのがよくないのかな、とも思います。引っ張っていかないといけない世代が、それをできていないのかも。

羽田:なるほど。

「魂を込めたコンテンツは必ずバズる」——

夷:今って発信する方法を知っていたら、たとえ学生だとしても世界に発信できるじゃないですか。ちょっとした学生同士の内輪ノリでやってみよう、というのはいつの時代にもあったと思うんです。だからこそ、古着屋のおじさんがこうやって羽田さんにも会えたわけですし。

羽田:そうですね。

夷:名前を出してなにかを発信すると、「よし、ちゃんとやろう」という後押しにもなりますから。

羽田:そう、本当にそれはそうだと思いますね。責任が生じて、しっかりやらんとな、って。

夷:僕が羽田さんに最初に会ってお話をしたときに、すごく刺さった言葉があって。「魂を込める」っていうやつね(笑)。

羽田:あはは(笑)。いや、魂を込めたコンテンツは必ずバズりますから(笑)。

11

夷:こういう話って、あんまり若い人の口から聞かないんですよ。逆に僕らというか、30 代、40 代のおじさんが言っていて、で、若い子に刺さらない言葉なんです(笑)。

羽田:そうですか(笑)。

夷:それで、この人わかっているんだ! みたいな。それで人柄に惚れて、メディアを引き 継いだらまたこの人と話せるんじゃないかと思ったんですよ。

羽田:あはは(笑)。

「好き」なことで事業をする——

12

夷:何かを「好き」っていう気持ちが大事なんですよ。そういう「好き」っていう思いが 積み重なって、今いろいろなものがあるわけですから。でも、もともと僕自身は発信していくとか、表に出て意見を言うとかそういうのが苦手なタイプだったりすることもあって。

羽田:あぁ、僕もそういうのは苦手ですね。自分の名前を載せたのも、サイトを閉鎖する 最後の記事だけでした。

夷:でも、苦手な人だからこそ「魂が込もった」話ができるというのもあると思うんです。

羽田:そうですね。やっぱり、「斜に構えずやりたいことをやってみるのが大事」、っていうことは経験させてもらいました。自己満足マスターベーション も突き詰めたら上手くいくと思うんです。ただ、僕の場合は中途半端だったから。中途半端な「好き」だけじゃやっていけないです。

夷:僕も、たとえば「古着」自体にものすごいこだわりがあったわけじゃなくて。服という対象をフラットに見られるからこそ、事業をやっていられるんだなと思いました。

羽田:いや、最後になりますが、本当に僕は「BAZZSTORE」さんは面白い会社です、っていうことだけは伝えたいですね(笑)。

夷:ありがとうございました。本当にまた、こういう話がまたできればと思います。

羽田:こちらこそ勉強になりました。ありがとうございます。

14