夷英信(株式会社リンク「BAZZSTORE」代表)
×
羽田憲人(元UNFASHION代表)
特別対談 前編


2012年11月に開業し、2014年4月に看板を下ろした輸入古着通販サイト「UNFASHION」。そして同社が運営していたメディア、「UNFASHION ism」と「東京古着屋マップ」。惜しまれつつ動きを止めていた「UNFASHION ism」だが、この度ブランド古着販売を行う「BAZZSTORE」への譲渡が決まり満を持して再始動するという。これを受けて、株式会社リンク(「BAZZSTORE」)代表の夷英信と、元UNFASHION代表の羽田憲人の対談が実現。「UNFASHION」から「BAZZSTORE」へ——。そこに至る経緯や「商売」に関する思い、両人が考える「販売」と「メディア」運営のあり方について語り合った。今回はその前編となる。
(インタビュー・構成/ぽにょ)


「UNFASHION」から「BAZZSTORE」へ——

羽田:今日はよろしくお願いします。羽田憲人です。僕は大学院を卒業したばかりでして、今現在は起業していますが、学生の時に輸入古着の販売をやっていました。それが「UNFASHION」で、そこで運営していたメディアが「UNFASHION ism」と、「東京古着屋マップ」というものです。

夷さん:こちらこそ本日はよろしくお願いいたします。夷英信です。都内でブランド古着販売・買取のリサイクルショップ、「BAZZSTORE」を運営しています。僕自身は、いわゆる起業家という感じでして、現在は4年目の新米社長です。

羽田:新米なんですか? 4年目で。

夷:小売だとまだまだ新米です。社会人としては10年目になりますね。

02

羽田:夷さんからご連絡をいただいて、「UNFASHION ism」、「東京古着屋マップ」を「BAZZSTORE」に引き継いでいただくことになったんですよね。知らない間に運営が変わっているのもどうなのかな、ということで、「じゃあ一度しっかりその経緯を公開しませんか?」というご提案をいただいて。

夷:はい、それで今回の会が実現しました。「BAZZSTORE」は今年の6月に渋谷に新店を開きまして。それまでは下北沢や江古田、練馬、千歳烏山とか、比較的ベッドタウンに近いエリアに出店していたんですね。対して渋谷という土地柄、「集客方法を変えるべきじゃないか」と話していたんです。それで色々調べていたときに、「東京古着屋マップ」を発見しました。

03

夷:それで、「このマップが物販につながらないかな?」っていう話になったんですよ。そこから「UNFASHION」のサイトを見つけて、東大生を変身させる記事や、他にも見たことがある記事を見つけて。「あぁ、同じところがやっていたのか」と(笑)。でも全然サイトも更新されてないし、「あれ?サイト終わっちゃったのかな」なんて思い、運営の方を調べていたら羽田さんを見つけて。

04

羽田:最初はFacebookのファンページから連絡をいただいたんですよね。

夷:いきなり個人にご連絡するより、ひとつフィルターを通したほうが良いかなと(笑)。

羽田:そういうことだったんですね(笑)。「UNFASHION」ってECサイトだったんですけど、そこでブログメディア(「UNFASHION ism」)だったり、マップ(「東京古着屋マップ」)だったりもやっていまして。今回は、この「イズム」と「マップ」の譲渡という形になったんですよね。

夷:そうです。新店舗が渋谷という立地上、住宅街と性質が違ったんです。たとえば、今日渋谷に来た人でも、彼らは別の場所に帰って行ってしまうわけじゃないですか。そういう場所の特性を考えたときに、じゃあ別の集客方法が必要だなと思いまして。もともとECもやっていたので、それにメディアを絡めたら面白いかなと思ったんです。

羽田:そうだったんですね。

夷さん:最初は、運営の方がどういう人なのか気になったということと、「サイトは止まっているけど、うちの記事も書いてもらえないかな?」と、記事依頼ができれば良いな、と思ったのがきっかけでした。実際に羽田さんにお会いしてみて、手間を惜しまず自身で仕入れを行って販売するサービスを行って、辞めるに至った経緯を説明していただいて。そこでとてもロジカルなお考えをお持ちなのに、あえて「商売目線」からITを活用している点に共感したんです。決定打は羽田さんの人柄です。恐縮ですが、会って話をしてみて、この方と仕事をしてみたいと思いました。そして「メディアを買えば、またお話ができるな」、とも(笑)。今では、お忙しい羽田さんのリソースをいただいているという状況ですが(笑)。

羽田:いや、タダ飯をご馳走になって寿命を延ばしてもらってます。ありがとうございます……。

夷:いやいや、先行投資です。

05

「UNFASHION」の立ち上げから閉店へ——:

羽田: 元々「UNFASHION」はECサイトだったんです。基本は、自分で輸入古着を仕入れて、自分で在庫を持って、販売する。商品の写真撮影も、配送も行うという、ECのサプライチェーンのところは全部やっていたという感じです。僕自身、もともと輸入古着がすごい好きで。なんなら学生の時には、「店舗で古着屋やりたいなぁ」、なんて思ってたんです。で、ちょうどその頃、インターンでプログラミングを勉強していて、勉強する過程で、「じゃあECでやればやりやすいんじゃないか?」って思ったんです。それほど初期投資もかからないですし、自分の貯金と照らし合わせて計算してみてもできそうだな、と(笑)。

06

夷:なるほど。

羽田:それで、「やりたいことがやれる!」となったら、もうやらないわけにはいかなじゃないですか(笑)。という流れでECを始めたんです。まぁ、もともと単純に古着が好きだったというのが大きいですね。

07

夷:それはすごく大事なことです。実際にECをやってみて、どういうことがわかりました?

羽田:最初、僕すごい勘違いしていたことがあって。基本的にネットって、サイトを作ったら勝手に人が来ると思っていたんですよ。でも実際は、ECを立ち上げて一週間くらいは人が来たんですが、それ以降はほとんど0人という感じで、全然集客できない。それで、人が集まらないなら集客基盤を作ろうということで、ブログ(「UNFASHION ism」)を作り、そのあとにマップ(「東京古着屋マップ」)を作ったというかたちです。ブログに関しては、「とにかく面白いことをして、バズらせて集客させよう」という感じで始めました。基本、僕一人で記事を書いて運営をしていたので、かなり僕の趣味嗜好が出てしまったところはあるんですが。

夷:はじめは僕もまさか一人でやられているとは思いませんでした。EC自体をはじめたのは2012年頃ですよね? それで、メディアも始められて、東大生を着せ替える企画記事なんかも書かれて。

羽田: そうですね。2012年の11月にECをオープンして、2013年の5月にイズムを始めました。基本的には「オモコロ」のバーグハンバーグバーグの記事みたいに、「こういうおもしろいな〜と思うものやりたいな」という感じで。

夷:それ、大事なことです(笑)。

羽田:実際に、「ダサい東大生を変身させる」という企画の記事を例にとれば、PV自体はシリーズ合計で100万以上になったんです。でも、それが古着の購入にはつながらなくて。「PVの集客がそのまま購買につながらないんだ」、というところに関しては、当初はしっかりと考えられていなかったのが正直なところですね。

ビフォーアフター

08

夷:なるほど。記事を読んでくれても、その人が「UNFASHION」で古着を購入してくれたわけではなかったわけですね。

羽田:そうですね。PVをいくら集めてもコンバージョンにつながらない(※記事の閲覧者数がそのまま購入者数へと転換されないこと)。これじゃいけないな、ということで、狙い撃ちで集客しようとしたのが「古着屋マップ」の方です。あれは、「渋谷」、「古着」、「ショップ名」とか、そういう特定のキーワードを確実に取りに行こうと狙って作りました。その頃あたりから、僕もちょっとはこざかしくなっていたので(笑)。

夷:マップのほうが購買につながったんでしょうか?

羽田:そうですね、あれは実際にコンバージョンにつながりました。はじめはECがまったく売れてなかったんですが、マップとイズムのおかげでちょっと動きはじめたかな、という感じでした。でも、一緒に運営していた仲間が就職してしまったこともあって、サイトを辞める流れになったんですよ。やろうと思えば、もしかしたら僕一人でもできたのかもしれないんですが、僕が「古着屋をやりたい」と思ったのって、「自分のこだわりを実現させたい」というモチベーションだったんじゃないかと気づいてきて。

09

夷:そういう純粋な気持ちは大事ですよ。

羽田:いや、もちろんそれも大事なのかもしれないんですが、「ビジネスでこだわりを実現するよりも、世の中の人がなにを欲しているのかを理解して、そこに適切に提供する」、ということのほうが事業を成功させる上では重要なんじゃないかな、と思ったんです。

夷:なるほど、「こだわり」だけではダメだと。

羽田:それで、そちらの方向性に寄せようともしたんですが、なにせこだわりだけで始めたものだったので、すごく中途半端になってしまって。だったら、もう古着じゃなくていいな、人のためになるようなサービスならば、古着である必要がないなと思ったんです。「人のためになる」という表現はちょっと、ニュアンスが違うかもしれないんですが。でも、やっぱりお金が動いていないと面白くないですし。

夷:今、羽田さんのお話を伺っていて、それって逆に良かったんじゃないか、という風に思うんですよ。こういうサイトって、「商売目線」でやっているというのは見ていてわかるんですね。「あ、これは古着が好きな人がやっているんだな」って。逆にただGoogleで検索して出てきたとおりにマップを作っていたとしたら、「ただの集客目的だな」ってすぐに分かっちゃう。これって学生さんがやっていたからこそ、「好きな人がやっているんだ」というのが伝わったわけですし、僕にとってはそれが良かったんです。当初はまさか、羽田さんお一人でやっているとは思いませんでしたし、きっと学生さんのグループでやっているんだろうな、なんて思っていたのですが。いや、まさか一人だったとは(笑)。

羽田:いやぁ、はは(笑)。

10

「BAZZSTORE」の事業と挑戦——

夷:今うちがやっていることを説明しますと、「BAZZSTORE」は、ブランド古着の販売、売買を行う衣料・飾品特化型のリサイクル・リユースショップです。もともとは、「リサイクル業の認知度アップ」と「顧客還元の徹底」に挑戦したくて2011年に創業したという経緯があります。

s-bazzstorenew

羽田:2011年に創業されて、もう都内で6店舗も運営されていますよね。店舗をこれだけ持っていて、なおかつECもされているというのは本当にすごい。

夷:ありがとうございます。リサイクル業界ってまだまだ「安く買って、高く売る」というイメージの強い業界です。全てがそういうお店ばかりではないですが、他業種に比べて粗利率の設定自由度が高いので、昔ながらの運営ができてしまっている店が多いのも事実なんです。

12

羽田:たしかにそういったイメージを払拭するのって難しいかもしれないですね。

夷:そういったイメージのなかで、「原価率を上げる=買取金額を出す仕組み」というのがうちの一番の強みです。顧客満足度を上げるためには、やはりお客様にとって、「高く買い取ってくれた」という経験が重要だと思うので。

羽田:それから、僕が夷さんとお話していて思ったのが、「BAZZSTORE」さんはオペレーションが非常にしっかりしているなということです。福利厚生などの制度面もかなりしっかりされていますよね。

夷:はい。ノウハウ構築以外のところで最も力を入れているのが、「コミュニケーション能力の徹底」と「福利厚生の向上」です。たとえば、アルバイトの方も気軽に役員とミーティングができますし。創業以来、一緒に成長できる仲間を常に求めているので、アルバイトから正社員にあがって店長を務めているスタッフもいます。福利厚生に対しては、給与インセンティブを設けた新店舗へのチャレンジ制度も導入していて、一定条件を満たした社員に対しての育児休暇取得後の給与補助も行っています。新卒採用も導入を検討中ですね。

羽田:そういった制度面がしっかりしていると、働く側としても安心ですよね。そこを徹底されているのもさすがだな、と。

夷:そういったものは、やはり創生期に作っておかないと。

ECサイトが「メディア」を持つ“おもしろさ”——

夷:とにかく、うちを単純にまとめますと、「IT+リサイクルベンチャー」というところでしょうか。現時点で、まだまだリサイクルショップならここだよね、というのがないと思うんです。そんな状況で、リサイクルショップがメディアをやっているのは面白いんじゃないか? という思いから羽田さんにアクセスさせてもらいました。

羽田:でも、僕の場合は、まぁ言ってしまえば、「学生がノリで始めた」というよくある感じだったんです。メディアを作ってPVを集めても、やはり購買へとしっかりコンバージョンできたわけではなかったですから。

13

夷:いや、でも僕、いきなりECだけで売ろうとしても難しいと思うんです。結果的に服に興味がある人が集まって、その次のステップで何かが生まれると思うんですね。例えば人がサイトに集まり、そこから購買につなげていくステップというのがあって、そのステップのところの力を蓄えるには一定の期間が必要だと思っています。いきなり結果がでるわけじゃない。

羽田:たしかにそうですね。

夷:いきなりその先に繋がるというわけではなくて、ファーストステップで「BAZZSTORE」を知っている、それに「UNFASHION」も見たことがあるぞ、という人が集まって、「じゃあそこから何が生まれるのか?」ということだと思います。極端な話、それは「BAZZSTORE」とは関係ないものが生まれても全然良いと思うんですよ。その何かが生まれる、という可能性がある、というところがメディアの魅力なんじゃないかと。

羽田:そうですね。メディアを実際に運営してみたからこそ、失敗を通じてそういったところも経験できたかなとは思いますね。

夷:ここまでお話して、次は古着屋やリサイクルショップの現状について、またそういう販売業者がメディアを運営するということについてお話できればと思います。

羽田:はい、後半もよろしくお願いします。

以上、前編では「UNFASHION」とは? 「BAZZSTORE」とは? というお話から、「UNFASHION ism」
が「BAZZSTORE」へと引き継がれるまでの経緯を伺った。後編では、より詳細に「UNFASHION」が閉店に迫られた背景と、学生ビジネスの限界と可能性。そして両人が考えるECサイトがメディアを運営する意義、そして「商売目線」でITを活用することへの思いについて話し合う。(前編 終)

気になる続きは【後半】へ…!